【翻訳の仕事】「登場人物の気持ち」を訳すステップ

【翻訳の仕事】「登場人物の気持ち」を訳すステップ

講座の添削で思わずうなることも

みなさん こんにちは!
英日翻訳講師のMisaです。

英日翻訳講座で受講生のみなさんの翻訳を添削していると、思わず「うまい!」とうなることがよくあります。先日も、とってもうまい訳語に出くわし、「わあ! めっちゃうまい!」とうなりました! それは、「登場人物の気持ち」を表す〝ashamed〟という単語の訳語です。

物語において、「登場人物の気持ち」を訳すのは難しいものですが、ドンぴしゃ!の訳語が思いついたときは、とってもうれしいものです! そこで今回は、上記の〝ashamed〟を例にとり、「登場人物の気持ち」をいくつかのステップを踏んで、いっしょに訳してみましょう!

 

アンデルセン作の童話『The Bell』から

この〝ashamed〟は、FEの英日翻訳講座のテキスト、『The Bell』の中に出てきたものです。『The Bell』はアンデルセン作の童話で、百年以上も前の作品です。では、その文章を見てみましょう。

But the poor child was quite ashamed; he looked at his wooden shoes, pulled at the short sleeves of his jacket, and said that he was afraid he could not walk so fast; (原文の一部を抜粋)

*ストーリー展開と場面設定:ある街では夕方になると、なんとも美しく荘厳な鐘の音がどこからともなく聞こえてくる。その鐘がどこにあるのか誰も知らず、人々はこぞってその鐘を探そうとする。子どもたちもその鐘を探そうと森に入っていき、このthe poor childは、王様の息子に「いっしょに鐘をさがそう」と誘われている。

そして、上記の文章が続いています。

 

5STEPで訳していきましょう

STEP1

まずこの文章を読み、意味をつかみましょう。

 

STEP2

次に、このashamedはどのような意味合いなのか考えるために、必要な情報をリストアップします。ストーリー展開や場面設定、この文章(前後の文脈)を考慮して、必要な情報をつかみましょう。そうすると――

・the poor childを誘っているのは「王様の息子」である。

・the poor childは「木の靴」をはき、「そでが短くなった上着」を着ている。

・the poor childは王様の息子に、「あまり早くは歩けない」と言っている。

このあたりの情報が必要だと思われます。

 

STEP3

STEP2でリストアップした情報を考慮し、このashamedの意味合いを考えます。するとこのashamedは、「自分の身なりを恥ずかしく思っている」という意味合いであると思われます。

 

STEP4

意味合いがつかめたところで、その意味合いがしっかりと出るような訳語を考えます。このとき、その訳語が、この文章の他の部分とうまくかみ合うようにしましょう。では、他の部分を訳すと――

けれどもその少年は、______________ ⾃分の⽊靴を⾒たり、短くなったそでを引っぱりながら、「あまり速くは歩けないんです」と⾔いました。

さて、このashamedはどう訳せば、この文章にうまくなじみ、なおかつ、このashamedの意味合いをしっかりと出せるでしょうか。考えてみてくださいね!

さあ、どうでしょう。「これだ!」と思う訳語は見つかりましたか? 

 

講座受講生の方の翻訳は…

では、わたしが「わあ! めっちゃうまい!」とうなった、受講生の方々の訳語をご紹介しましょう。

  • その少年は気後れしながら……
  • その少年は気が引けました。……
  • その少年はとまどった様子で……

 

はい! どの訳語にも、この少年が「自分の身なりを恥ずかしく思っている」という意味合いがしっかりと出ていますよね! そして、これよりあとの部分(「自分の木靴を見たり……」)とうまくかみ合っています! まさに〝ドンぴしゃ!〟の訳語です!

 

惜しい!こんな訳文も

他には、こういう訳語がよく見られました。

㋐その少年は自分を恥ずかしく思い……

㋑その少年は恥ずかしそうに……

㋒その少年は恥ずかしがっていました。……

㋓その少年は恥ずかしい気持ちでいっぱいでした。……

 

いずれも、恥ずかしく思っているのは〝自分の身なり〟であることが、いまいち伝わってこないように思います。また㋑と㋒は、単に「内気で恥ずかしがりや」な意味合いに受け取られる可能性もあると思います。

この訳文では「気持ち」が伝わらないんです…

そして、ちょっと残念な訳語もちらほら見られました。

㋐その少年は恥ずかしがりやでした。……

㋑その少年ははにかんで……

確かにashamedには「恥ずかしがりやの、内気な」という意味があります。でもこれは、人の性質を表すときに使われるので、この場面設定でこのような訳語にすると、「この少年は内気で恥ずかしがりやな性格である」という意味合いになってしまい、この場面での少年の気持ちが読者に伝わらなくなってしまいます。

 

STEPでとらえよう!「登場人物の気持ち」

「登場人物の気持ち」が読者に正しく伝わらなければ、ストーリー展開がぼやけてしまい、ひいては、その登場人物のキャラや作品のテーマまで変わってしまうおそれがあります。

今回ご紹介したSTEPからもおわかりのように、「登場人物の気持ち」を訳すときは必ず、ストーリー展開や場面設定、前後の文脈を考慮して、その気持ちを表す単語の意味合いをとらえてから訳すようにしましょう!

 

 


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翻訳家のたまご

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2 件のコメント

  • この講座が紹介されたとき私も原作をざっと読んでみました。そのときは今一つピンとくるものがなかったのですが、自分なりに訳してみようと思い立ち、取りかかりました。やはりキリスト教や文化的背景を知らないと、いきなり原文を読んだだけでは言葉の意味も理解できないものですね。翻訳することで、その作品を深読みすることができるのですね。

  • obatayukoさま

    コメントいただき、どうもありがとうございます!
    そうですね、キリスト教の知識があると、英米の作品を深いところまで読んで、そのテーマや示唆などを何倍も味わうことができると思います。
    文化的背景や時代背景は、わたしたち日本人でもある程度知識があり、また、ネットで検索するという方法もありますよね。
    キリスト教もある程度の知識はありますが、奥深いものですので、関連書籍を数冊読むと良いように思います。わたしはミッション系の短大出身で、毎日、チャペルアワーがあったのですが、当時はあまり(というか、ほとんど~)関心がなく、知識も少なかったのですが、翻訳を学習し出してからキリスト教に関心がめばえ、ある一時期、聖書や関連書籍を熱心に読みました。予想以上におもしろかったです!

    Misa

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    ABOUTこの記事をかいた人

    兵庫県出身。大阪女学院短期大学英語科、Gwinnett Technical Institute Travel Management学科卒業。電機会社勤務、英語塾経営・運営を経て、翻訳業に従事。現在、児童英語講師と翻訳通信講座添削トレーナーも務める。 翻訳実績(和訳):ノンフィクション(人文系)、コミック(英文学対訳シリーズ)、雑誌(クラフト系)、映画関連資料(公式サイト、劇場用パンフレット、予告編、特典映像、プレスリリースなど) 『趣味は洋画と洋楽(〝あの〟映画を観てからQueenに夢中!)鑑賞、阪神タイガースの応援(田淵・掛布時代からのファン! わっ、古ぃ~)。日課は20分程度のウォーキングとストレッチで、運動不足解消のため両手両足を大きく振って歩くので、すれちがう人から「お! がんばっとるな!」と声をかけてもらっています(笑)。そして夜はお酒のアテづくりと「家呑み」。毎晩8時以降は居酒屋の女将に変身します!』