【翻訳の仕事】「漢字表記」のガイドラインを持とう

翻訳者育成講座の講師Misa先生の記事。「漢字表記」のガイドラインを持とう

みなさん こんにちは!

英日翻訳講師のMisaです。
前回は、英日翻訳においての「語順」と「読点の位置」についてお話いたしました。さて今回は、日本語独特の特色がある「表記」についてお話しいたします。

 

「漢字表記」は注意が必要

日本語の言葉を表記する方法は、ひらがな、カタカナ、漢字の3つがあります。書籍の翻訳作業において、「どんな表記を使うか」は大きなポイントです。
表記の選択次第で、その作品やセリフの雰囲気やトーンが変わってくるからです。
特に、児童向けやヤングアダルト向けの作品は対象読者が子どもなので、年齢によって習っている漢字と習っていない漢字があり、注意が必要です。

出版されている児童向けやヤングアダルト向けの書籍における漢字表記は、一般的に「ルビ」が振られており、次の2つのパターンがあります。

  1. すべての漢字にルビが振られている
  2. 小学低学年で習う基本的な漢字(上、下、思う、知る、朝、時間、大きい、白い、など)以外の漢字にはルビが振られている

したがって、読者(子ども)の目線に立つと、習っていない漢字が出てきても、ルビが振られているので「読める」というわけです。
でもだからと言って、翻訳する側が「漢字表記」に注意しなくてよいということにはなりません。
翻訳する際は必ず、「読者の年齢層を設定し、その年齢層が読める漢字は漢字で表記し、読めない漢字はひらがなで表記する」など、適切なガイドラインを作り、それにしたがって表記を選択する必要があると思います。

 

読み方が難しい漢字をなぜ使うのか?

フルーツフルイングリッシュはこれまで、児童向けやヤングアダルト向けの物語や古い童話をテキストとした英日翻訳講座をいくつも開講してきました。
それらの講座で、わたしは講師として受講生のみなさんの翻訳原稿を添削してきたのですが、そのとき、漢字表記の点で気になったことがあります。
それは、「読み方が難しい漢字を使用し、ルビを振っていない」ことです。
以下、例を挙げますと――

●読み方が難しいのに漢字で表記され、ルビが振られていなかった言葉の例

★動詞⇒掴む、覗く、居る、など
★形容詞⇒可哀そう、可愛い、綺麗な、嬉しい、など
★その他⇒嫌だ、何故、何処、此処、など

これらの漢字表現は、たとえ大人向けの書籍の翻訳で使われていたとしても、わたしはやはり、「どうしてこんな難しい漢字表現を使ったんだろう?」と疑問に思います。

特によく見かけるのは、「掴む(つかむ)」、「覗く(のぞく)」、そして「綺麗な」。この3つの漢字表現は、日常的にはあまり見かけませんよね? 国語辞書を引くとわかるのですが、これらの漢字表現は「常用漢字」ではないんです。だから、新聞や一般書籍、一般文書など日常的にはあまり見かけることがありません。なのに、これらの漢字表現を使っている翻訳をこれまで何度も目にしてきました。ですから、わたしは自然と「なんでこういう漢字表現を使ったんだろう?」と考えるようになりました。

そして、2つの答えが思い浮かびました。1つは、「単純に、パソコンが漢字変換をした」。そしてもう1つは、「原作が古い童話なので、古めかしい雰囲気を出そうとした」、です。

 

自分なりのガイドラインを持つ

「ひらがな表記」にするか「漢字表記」にするかは、もちろん翻訳者の自由であり、正解も不正解もありません。でもわたし個人としては、「常用漢字ではない表現は、基本的には使わない」ことをガイドラインにしています。いくら「古めかしい雰囲気」を出したくても、「常用漢字」として使われていない表現は、必要に迫られない限りは使わないようにしています。

「じゃあ、ルビを振ればいいのでは?」というお声もあるかもしれません。でも、なぜわざわざルビを振ってまで、常用漢字ではない表現を使うのか、わたしは疑問に思います。

「表記が選択できる」のは、物語やセリフの雰囲気やトーンを演出するうえでとってもありがたいものです。でも、表記というものにそれだけ大きな力があるからこそ、表記の選択には常に注意を払う必要があると思います。

 

「常用漢字かどうか」を確認する簡単な方法

補足ですが、「常用漢字かどうか」を確認する簡単な方法をご紹介しますと――

  1. 「goo国語辞書」のサイトに入る
    こちらです⇒ https://dictionary.goo.ne.jp/jn/
  2. 確認したい表現を「調べたい言葉を入力」のボックスに入力し、「検索」をクリックする
  3. 「意味」という表示の下に、その表現に関して、こんな表示がある(例:掴む)
    「つか・む【×掴む/×攫む】 の解説」
  4. この表示で、×もしくは▽がついている漢字は、常用漢字ではなく
    ×もしくは▽がついていない漢字は、常用漢字である

 

以上の方法で、簡単にチェックできます!

 

 


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ABOUTこの記事をかいた人

兵庫県出身。大阪女学院短期大学英語科、Gwinnett Technical Institute Travel Management学科卒業。電機会社勤務、英語塾経営・運営を経て、翻訳業に従事。現在、児童英語講師と翻訳通信講座添削トレーナーも務める。 翻訳実績(和訳):ノンフィクション(人文系)、コミック(英文学対訳シリーズ)、雑誌(クラフト系)、映画関連資料(公式サイト、劇場用パンフレット、予告編、特典映像、プレスリリースなど) 『趣味は洋画と洋楽(〝あの〟映画を観てからQueenに夢中!)鑑賞、阪神タイガースの応援(田淵・掛布時代からのファン! わっ、古ぃ~)。日課は20分程度のウォーキングとストレッチで、運動不足解消のため両手両足を大きく振って歩くので、すれちがう人から「お! がんばっとるな!」と声をかけてもらっています(笑)。そして夜はお酒のアテづくりと「家呑み」。毎晩8時以降は居酒屋の女将に変身します!』