【翻訳の仕事】「語順」と「読点の位置」

翻訳者育成講座の講師Misa先生の記事。【翻訳の仕事】「語順」と「読点の位置」

みなさん こんにちは!
英日翻訳講師のMisaです。
これまで2回にわたって、「洋書の邦訳の制作プロセス」をご紹介しました(前回、前々回のブログ記事)。
さて今回は、わたしがまだ翻訳者として駆け出しのころ、編集者や校正者の〝プロの仕事〟から学んだことをお話しいたします。

 

学術的な書籍を初めて翻訳

書籍の翻訳を手がけるようになって3年ほど経ったころ、わたしはある人類史の翻訳を担当しました。
それまではコミックやフィクション、伝記物などをメインに手がけていたので、学術的な書籍の翻訳はこのときが初めてでした。
ですから、学術的な文章にフィットする文体に訳すこと自体、大きなチャレンジだったんです。
そして試行錯誤を重ねて四苦八苦しながら全編を訳出し、原文との照らし合わせのチェックが終わって訳文をブラッシュアップしたときには、学術的な文章の翻訳に慣れてきたように感じていました。

 

編集者や校正者の〝匠の技〟

さて、その翻訳原稿が編集者と校正者の手によって「編集」「校正」のステップを経て、わたしのもとに戻ってきたときのこと。わたしの目は大きく見開かれました!
学術的な文章にぴったりの〝かっちりした〟訳文でありながらも、ものすごく〝読みやすく〟なっていたんです!
「これがプロの仕事なんだ!」と、編集者や校正者の〝匠の技〟に感動しました!
特に目を見張ったのは、「語順」と「読点の位置」!
編集者や校正者が整えてくれた文章を見て、「語順」と「読点の位置」しだいで訳文がぐっと読みやすくなったり、文意がわかりやすくなったり、文章の〝キモ〟(意味の中心部分)を際立たせられるということを痛感したんです。

例を挙げてみましょう。

原文)
Western culture has cast the sea in the role of antagonist from the beginning. 

(cast ~は「~に役を割り当てる」、antagonistは「(演劇、文学作品などで主人公に対立する)敵、敵役」)

直訳)西洋文化は最初から、海に敵役という役回りを割り当ててきた。

では、この原文の訳を4パターン、以下に記します。さてどの訳文が、一見して意味がスーッと頭に入ってくるでしょうか?
(*この原文は、これより前の文脈と意味の上でのつながりはないものと考えてくださいね)

訳文)
㋐古代より、海は西洋文化では悪役にされてきた。
㋑古代より海は、西洋文化では悪役にされてきた。
㋒古代より、西洋文化では海は悪役にされてきた。
㋓古代より西洋文化では、海は悪役にされてきた。

まず〝読みやすさ〟という点で見ると、㋑と㋓がスムーズに読めるのではないでしょうか。
㋐と㋒のように「古代より」のあとに読点があると、そこでいったん目線が止まり、そのあとの部分の情報が多くなってしまって、読みながら意味をとるのに少し時間がかかってしまいますよね。

次に㋑と㋓を読み比べてみましょう。さて、どちらの方が、文意がスムーズに頭に入ってくるでしょうか?

㋑古代より海は、西洋文化では悪役にされてきた。
㋓古代より西洋文化では、海は悪役にされてきた。

さあどうでしょう。はい! ㋓の方がスムーズに入ってきますよね。
㋓は、この訳文の主語である「海は」と、述部である「悪役にされてきた」がひとくくりになっているんです。
まず「古代より西洋文化では」と、「時」と「場所」を表す部分をひとくくりにし、そのあと読点を打っていったん休み、そして「海は悪役にされてきた」と、この文の〝キモ〟(意味の中心部分)をひとくくりに続けているので、文の成分が整理されていて、文意がスムーズに頭に入ってくる、というわけです。

ちなみに、当時のわたしの訳文は㋒でした。「句(from the beginning)のあとは読点を打つ」と、単純にそして自動的に考えていたからです。
それが編集者の手を経ると、㋓の訳文なっていました。
「読点の位置を動かすだけで、こんなに読みやすい文章になるんだ!」と、まさに目からウロコ!
こうしてわたしは、読点の〝力〟を目の当たりにし、それまで読点にあまり注意を払っていなかったことを反省しました。

 

「読点の位置」に気を配る

それまでのわたしは、このように「句のあとは読点を打つ」とか、「接続詞のあとや、従属節のあとは読点を打つ」などと、読点の位置を文法的な面から考えていたんです。
でもこのときの経験から、文章の意味の流れや文章の〝キモ〟(意味の中心部分)という面から、読点の位置を考えることが必要だと感じ、以後、そうするように心がけています。

さて、英日翻訳講座で受講生のみなさんの訳文を添削していると、当時のわたしのように、読点の位置にあまり注意を払っていない方がけっこう多いんです。
中には、主語のあとに読点を打つクセがついている方や、長い文章でも読点をまったく打たない方もいて、ちょっとびっくりすることもあります。

さあみなさんも、和訳をするときは「読点の位置」にこまかく気を配りましょう!
そして、文章の〝キモ〟がわかりやすくなるように、語順を工夫しましょう!

 

 


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ABOUTこの記事をかいた人

兵庫県出身。大阪女学院短期大学英語科、Gwinnett Technical Institute Travel Management学科卒業。電機会社勤務、英語塾経営・運営を経て、翻訳業に従事。現在、児童英語講師と翻訳通信講座添削トレーナーも務める。 翻訳実績(和訳):ノンフィクション(人文系)、コミック(英文学対訳シリーズ)、雑誌(クラフト系)、映画関連資料(公式サイト、劇場用パンフレット、予告編、特典映像、プレスリリースなど) 『趣味は洋画と洋楽(〝あの〟映画を観てからQueenに夢中!)鑑賞、阪神タイガースの応援(田淵・掛布時代からのファン! わっ、古ぃ~)。日課は20分程度のウォーキングとストレッチで、運動不足解消のため両手両足を大きく振って歩くので、すれちがう人から「お! がんばっとるな!」と声をかけてもらっています(笑)。そして夜はお酒のアテづくりと「家呑み」。毎晩8時以降は居酒屋の女将に変身します!』