【文芸翻訳】小説のVOICEについて読んでみた

翻訳家を目指す方のための英日翻訳家デビュー講座 講師Masako先生の記事。海外文芸作品のvoiceについて

こんにちは、英日翻訳家デビュー講座の添削を担当しておりますMasakoです。

英日翻訳家デビュー講座で添削や受講生様の質問・Q&Aにお答えし、様々な視点からひとつの小説を見つめる機会が与えられたことを契機に、小説や物語のVOICEについてもっと知りたいと考え始めていました。

VOICEってなに?

小説や物語のVOICEとは、語り手の視点(Point of view: POV)ということです。

ノンフィクションであれば、語り手は当然 ”I” 「わたし」であるか、「わたし」の代理となる誰かを追う「わたし」でしょう。
主語を省略する形式の日本語のノンフィクションであれば、主語はまったくない文も考えられます。

ところがフィクションとなると最低でも以下の5つの視点が考慮されます。

  • 一人称(First person)
  • 二人称(Second person)
  • 三人称限定(Third person limited)
  • 三人称全知(Third person omniscient)
  • 複数視点(Multiple points of view)

 

5つの視点

一人称(First person)

一人称は言わずと知れた “I” 「わたし」の視点から物語がつづられていくスタイルです。
「わたし」が知りえたこと、感じたこと、見たこと、聞いたこと、考えたこと、憶測したこと、挑んだこと、望むことなどなどが語られます。
風景ももちろんその場の空気も「わたし」の目に写った様子、また感じることです。
読者は主人公の頭の中に入り込み、空気感や考察を共有しますよね。

この視点が最も読者を物語に引き付けるパワーを持つ手法でしょう。
読者は主人公になりきって主人公と同じ空気を吸い、同じ経験をすることで物語に浸りきることができます。
最も親密度が高い手法だといえるでしょう。

 

二人称(Second person)

次いで二人称。”You” と言っているそばから “We” が顔を出すこともあります。
いつのまにか一人称の「わたしたち」となっている場合が多いようです。
小説や物語よりも、むしろ広告宣伝のパンフレットや製品の取り扱文書、マニュアルなどによく使われる手法ですね。

 

三人称限定(Third person limited)

三人称限定(Third person limited)はもちろん御存知 “He” または “She”ですね。
一人の人間が見たり、聞いたり、経験したことを「わたし」の頭の中だけに収めておくのではなく、より客観的に外側に置かれた視点から観察するスタイルです。
読者はこの「彼」または「彼女」が見たこと、聞いたことを間接的に経験します。
ただし、以前に生じたことがらを話すうえでは、例えば自分の幼いころのことを話している「彼女」はいつの間にか「わたしはね、こうだったものよ……」と一人称になってしまう場合もありますし、章ごとに異なる人物の胸中を交互に描写することもあります。
読者は傍観者でいてもよいですし、主人公になりきることも可能で、親密度は依然として高いかもしれませんね。

 

三人称全知(Third person omniscient)

さて、次いでいわゆる「神の目」と言われる三人称全知(Third person omniscient)です。
一人の人物の視点から語らない手法です。どの視点からでもなにもかもお見通しといったところでしょう。
したがって、一つの物語の中で、ひとりの人物から他の人物へと視点が自由に行き来します。
当然ながら、物の感じ方、理解度、反応、行動などにもキャラクターごとに違いが出てきます。一番身近に感じられるのが「むかしむかしあるところに……」で始まる昔話でしょう。

舌を切られてしまう舌切り雀も、どんぶらこと流れてきた桃太郎も、あの驚きの浦島太郎でさえ、自分の考えなど決して表明しません。
透明人間のようになった語り手が、一部始終を語ります。
ですから主人公の考えを共有することもなく、客観的で親密度は低いはずです。
ところがこのスタイルもより深く心に残るものです。

 

複数視点(Multiple points of view)

そして最後の複数視点は、登場人物が増えれば増えるほど視点が増えるのですから、結果として壮大なドラマとなり得ます。
映画やドラマなど、出演者が多い場合もそれぞれの視点から物語が語られれば多重視点といえるかもしれません。
この場合ナレーターが物語全体の進行状況をまとめたりすることもありますね。

 

三人称全知のまたの名

私が敬愛するUrsula K. Le Guin(ゲド戦士など、ファンタジー、ヤングアダルト、童話など著書多数)は、三人称全知(Third person omniscient)をDetached author “Fly on the wall”、 “Objective narrator” または “Camera eye” と表現しています。
”Fly on the wall” というのは言い得て妙。
思わず笑ってしまいました。(『Steering the Craft』 Ursula K. Le Guinより)。

 

 

 


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ABOUTこの記事をかいた人

商社勤務。英国へ語学留学しCambridge English Certificateを取得。帰国後外資系企業に勤務。その後結婚して夫の転勤先である米国カリフォルニア州、テキサス州、さらにアフリカのナミビアを転々とする。 それぞれの地域のカレッジにて英語、スペイン語、数学、歴史など一般教養を終了し、ナミビアでは、南アフリカ大学の通信教育にてPsychologyを専攻。 1998年に帰国し、2000年にフリーランス「医学翻訳家」として稼働開始。医学分野において創薬(製剤試験、動物試験)、治験関連文書、承認申請資料、照会事項、文献、製薬品質管理、副作用報告書等々、様々な文書の英日、日英翻訳を手掛けて今日に至る。 <趣味や日課> 昔から単純なパズルゲームが好きで、現在は3マッチパズルにはまってます。他には読書。Amazon Primeでドラマや映画を鑑賞(CMがなく、好きな時間に連続して見ることができるので、国内、海外、ジャンルを問わず興味がわいたものを観ますが、近ごろはやりの『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』など常時アドレナリンだらだら系は苦手)、音楽鑑賞。 スポーツ観戦は、相撲に加え、テニスはウィンブルドンのみ、サッカーは四年に一度のワールドカップのみ観戦。フィギュアスケートも観ます。スポーツジムでエアロやヨガのレッスンを受け、マシンに乗ったりしていたのですが、どちらかというとその後の入浴が楽しみ。現在はウォーキングに切り替えています。料理は時短で済ませますが、どういうわけか編み物が好きです。