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産業翻訳を覗いてみませんか?[医学翻訳編No.5]

by Masako

こんにちは、英日翻訳家デビュー講座で添削を担当しておりますMasakoです。

医薬翻訳を覗くなんて無意味?

このタイトルも5回目を迎えました。

「医薬翻訳家を目指しているわけでもないし、興味ないわ!」とお考えの方もいらっしゃると思います。ですが、文芸翻訳にも様々なジャンルがあり、医療現場や科学を題材にしたフィクションやノンフィクションはもちろん、SF小説やミステリーなどに医学の情報が必要になることもありますよね。いつか医薬関連の私の記事がふと頭に浮かんで、お役に立つこともあるのではないでしょうか?

そんなことを願いながら、今回も臨床試験について、より詳細をお話しします。医薬翻訳の仕事のほんの一端でもご覧いただき、「ああ、こんな種類の翻訳もあるのだ」と興味を持っていただけたら嬉しいです。

さて、突然ですが以下の英文は一体なんでしょう?

“A Phase 3, Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Study Evaluating the Safety and Efficacy of XXX in Subjects with YYY”

主語や動詞もなく、文というよりなにやらよくわからない単語がずらりと並んでいますね。実はこれはある臨床試験の治験実施計画書(Study protocol)の標題なんです。実際のところ、この標題にざっと目を通しただけで、どんな患者を対象として治験薬XXXをどのような方法で投与して何を調べる試験であるのか、ほとんどの情報がぎっしりと詰まっています。順を追ってご説明しましょう。

まずは不定冠詞 “A” です。1件の臨床試験の計画書ですから、ほとんどの場合冒頭に “A” がつきます。”A”がないStudyの場合は、1件の臨床試験(治験)に限らず、より広義の「研究」を指します。

Phase 3は、前回ご説明した「治験の相」で、この試験が第III相試験であることを示しています。そして、第III相試験ですから、Subjects with YYY(疾患名YYYを発症している患者)を対象としていることもわかります。

続くMulticenterは、多施設共同試験を指します。単一の医療機関だけではなく、多くの施設で同時に実施される試験です。ひとつの国だけではなく、複数の国で同時に実施される場合もあります。この場合Global試験と呼ばれ、海外で製造された薬剤の試験と並んで、当然のことながら日英、英日の翻訳需要が生じますね。

次のRandomizedは、患者を薬剤XXXの投与群とプラセボ投与群に無作為に割り付けるということです。無作為化にはいろいろな方法があるようですが、現在ではもちろんコンピューターにより無作為割り付けされ、コード化します。

Double-blindとPlacebo-controlledも前回チラリと言及したもので、治験薬XXXを投与する治験参加医師らもまたXXXを投与される患者自身も、実薬XXXかプラセボを投与されているのか知らされない試験であるということ。ちなみに、有効性が確立されている多剤(Active drug)を比較対照薬とする場合はActive-Controlledとします。

そして、この治験の目的はなにかというと、Evaluating the safety and efficacy of XXX in subjects with YYYです。つまり、薬剤XXXをYYY患者に投与して、その安全性および有効性について検討することを目的としています。

全文を訳すと、

「YYY患者を対象にXXXの安全性および有効性を評価する多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲試験」

となります。

産業翻訳を覗いてみませんか?[医学翻訳編No.5]

理科系の医師や研究者らも実は言葉遊び好き

いずれにしても、臨床試験の標題はなが〜〜いものなんですね。ですから英語の標題の頭文字のみを並べて省略化されることも多く、とってもお洒落な治験名を見かけることもよくあります。例えば最近見かけたのは、アストラゼネカ社の第III相試験PROVENTTACKLE試験。現時点でFDAより緊急使用許可が下りたばかりのEvusheld (申請時のコード名AZD7442)の臨床試験で、それぞれ

A Phase III, Double-blind, Placebo-controlled Study of AZD7442 for Pre-exposure Prophylaxis of COVID-19 in Adult (PROVENT)

A Phase III, Randomized, double-blind, Placebo-controlled, multicenter trial of AZD7442 for Treatment of Covid-19 in Outpatient Adults (TACKLE)

Covid-19抗体陰性成人を対象とした感染予防効果と、すでに発症した外来患者を対象とした治療薬としてAZD7442の効果を検証する治験です。

ほかにも、

JUPITER trial (Justification for the Use of Statins in Primary Prevention: An Intervention Trial Evaluating Rosuvastatin trial)

MARS (The Monitored Atherosclerosis Regression Study)

Earth (Endothelin-A Receptor Antagonist Trial in Heart Failure)

必ずしも治験の標題とは限らず、試験段階の治療法や包括的な研究名などもお洒落な略語が使われていますよ!

Venus (Very Early Nimodipine Use in Stroke)

Hope (Heart Outcomes Prevention Evaluation)

Magic (Magnesium in Coronaries)

SYMPHONYMUSIC試験と呼ばれる臨床試験もありました。

いかがでしたでしょうか? 医薬翻訳にも、このような隠れた楽しみがあります。英語圏の人たちの楽観的なものの見方や、医療現場においても、患者の痛みや苦しみを少しでも和らげて明るく過ごそうとする姿勢が感じられますよね。 

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