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産業翻訳を覗いてみませんか?[ 医学翻訳編No.4 ]

by Masako

こんにちは、英日翻訳家デビュー講座の添削を担当しておりますMasakoです。産業翻訳のうち、私が携わってきた医薬翻訳につきまして、これまでいろいろお話してきましたが、今回はいよいよ臨床試験について触れたいと考えております。

新薬が生まれると、まずは動物を使った様々な試験が実施されます。ヒトに用いる前に動物に投与して、その安全性および有効性について調べるのです。動物試験も様々あり、また多種多様な動物が使われます。ラット、マウス、ハムスター、モルモットなどはその代表で、ほかにもウサギ、ビーグル犬、カニクイザルなどが用いられることもあります。また、がん細胞などの培養細胞を使用する試験もあります。

まず被験薬を単回投与する「単回投与毒性試験」、何度も繰り返して投与する「反復投与毒性試験」、長期にわたって投与する「がん原性試験」、何代にもわたって投与する「遺伝毒性試験」および「生殖発生毒性試験」などがあります。

「遺伝毒性試験」には、「細菌を用いる復帰突然変異試験」、「哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験」、「小核試験」などが含まれ、一方「生殖発生毒性試験」には、「受胎能および初期胚の発生」、「出生前後と母体機能」、「胚・胎児発生」に関する試験が含まれます。

上記の試験に問題がなければ、ヒトへの投与が開始されるわけです。

産業翻訳を覗いてみませんか?[ 医学翻訳編No.4 ]

コロナワクチンでもそうでしたが、現在小児や妊婦を対象とした第III相臨床試験を実施中などと報道されましたよね。第III相試験てなに? と疑問に思いませんでしたか?ヒトを対象とした臨床試験 (Clinical study またはClinical trial) は通常第I相、II相、III相、IV相と段階的に実施されます。

第I相臨床試験 (Phase I study) :通例健康な成人を対象として被験薬 (Investigational drugまたはStudy drug) を単回 (Single dose) もしくは反復投与 (Repeated dose) して薬物動態(Pharmacokinetics:PK)について検討します。つまり、被験薬の吸収・分布・排泄、半減期など薬物の体内動向を調べるのです。これに加えて、安全性や忍容性(Tolerability)を評価します。第I相は、オープン試験と呼ばれ、健康成人の被験者は基本的にボランティアで、投与前に被験薬の特性や内容を知らされ、同意した被験者のみが参加します。

ですが、抗ガン剤のように健康な細胞にも有害性を示す薬剤の場合、第I相試験は行わずに、患者に直接投与を開始することもあります。例えば、薬剤Xが乳がんに有効性を示すことが報告されれば、乳がん以外のがん患者で、これまで標準的な治療が無効であった患者、またはそのがんに対する有効薬が不明である患者に投与することも考慮されます。

次いで第II相試験 (Phase II study):これは少数の患者を対象に被験薬を投与して用量・用法 (Dose and dosage) を決定することを目的とします。また、二重盲験法 (Double-blind study)で実施されることが多い試験です。被験薬とプラセボを被験者に割り当て、患者や治験の参加医師ら(Investigator and subinvestigators)双方ともにその内容が知らされません。プラセボ (Placebo control drug) が割り当てられる患者もいるため、倫理的な問題を含む試験法ですが、医師の先入観やプラセボ効果の影響を避けるための試験法として用いられています。

ほかにも、単盲試験 (Single-blind study) と呼ばれる試験もあります。これは被験者には被験薬の内容は知らされず、治験参加医師らのみが内容を把握している試験です。また、医師も被験者も被験薬について知らされている試験はオープン試験 (Open-label study) と呼ばれます。

第III相試験 (Phase III study): 第II相試験で得られた用量・用法データや安全性データに基づき、より多くの患者に被験薬を投与して、その安全性や有効性を確認する試験です。

プラセボの代わりに、既にその有効性が確立している対照薬 (Active control drug) と被験薬をそれぞれ割り当てて比較検討する試験もあります。これを比較試験 (Comparative study) と呼び、先のオープン試験のように対照薬を用いない試験は非対照試験 (Uncontrolled study) と呼ぶこともあります。

ここまでは、承認申請前に実施され、非臨床試験のデータと共に試験報告書をまとめて当該被験薬の承認申請時に当局に提出します。

この被験薬が承認され市販されると、次には第IV相試験 (Phase IV study) を実施します。すなわち市販後調査 (Post-marketing surveillance) です。上記第III相までの数々の試験でも報告されなかった予期せぬ副作用の発生状況や用量との因果関係などを調べ、データを収集し、集積します。

このように、ある医薬品が承認され、市販された後もその安全性を監視し、関連する問題のデータを収集し、評価し続けます。これをファーマコビジランス (Pharmacovigilance) と呼び、WHOの定義に従って各製薬企業により実施されています。

ここまで、非臨床試験〜ヒトを対象とした臨床試験(治験)についてごく簡単にお話ししましたが、国内外で同時に臨床試験を実施したり医薬品を輸出・輸入する際には、これらすべての治験実施計画書 (Protocol), 治験薬概要書 (Investigator’s brochure)、被験者向けの同意文書 (Informed consent form)、最終報告書 (Study report) などの英日・日英の翻訳需要が生じます。

いずれも医薬品の臨床試験の実施に関する基準 (Good Clinical Practice: GCP) に従います。GCPその他のガイドラインは、前にもご紹介しましたが、ICHやWHO公式英文サイトに加え、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページにも掲載されています。PMDAのサイトでは、英文のGCPと和訳済みのGCPを閲覧できます。

これだけではなく、臨床試験には様々な試験法があります。次回はその詳細をほんの少し覗いてみませんか? 

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