あらすじ

12歳の誕生日を迎えようとするラフィエットは8人兄弟。「ホーネッツ(スズメバチの巣)」というあだ名で呼ばれるシカゴの公営団地に住んでいる。 この大規模低家賃住宅団地は維持管理がなされず荒廃の一途をたどっている。父親はほとんど家に帰らず無職で麻薬中毒のため、母ラジョーが独りでどうにか育ててくれている。 責任感の強いラフィエットは母を助け、弟ファロウの面倒をみながらスラム街でたくましく生き抜こうとするが、友人たちの死や不当な社会の現実に直面。 ラフィエットとファロウ兄弟を中心に、スラム街で暮らす子供たちの現状を生々しくリポートしたノンフィクション作品。

登場人物紹介

ラフィエット

もうすぐ12歳で8人兄弟の4番目。母や兄弟思いで数学が得意。友人たちの死に直面し心に深い傷を負う。

ファロウ

おっとりした夢見がちなラフィエットの弟。9歳。勉強が好きで、スペリンング・コンテストに出場し2位になる。

ラジョー

8人の子供を一人で育てるたくましい母。他人にNoと言えない情の深い人物。

ジミー・リー

ギャングのボスでドラッグの売人。女性や子供には優しい面もあり、畏れられながらも尊敬される人物。

この本の楽しみ方・魅力

THERE ARE NO CHILDREN HERE の魅力をたくさん知り尽くした共同翻訳者のみなさんに、
この本の楽しみ方を教えてもらいました!

  • この本を訳し始めてしばらくたった頃、Black Lives Matterという人種差別抗議運動がアメリカで始まり、まだまだ差別は続いている事を改めて世界に知らしめた。 私も小説や映画で、黒人差別や差別から来る困難な生活ぶりについてはある程度知っているつもりだった。 しかし、このドキュメンタリーに描かれている黒人の子供達の様に、命の危険を身近に感じ、「もし大人になれたら」と思いながら生きる日常生活は想像もできなかった。 彼らは今どうしているのだろう?大人になれたのだろうか?幸福であってほしいと心より願う。

    河村 久美子

  • 日本という国に生まれ、ある一定の生活を送ることができる私たちにとって、この本で語られる人種差別が生み出す貧困と危険は想像を遥かに超える。 イデオロギーによって創られる「内戦」とは一線を画し、どこにでも起こり得る怖さをはらんでいる。 世界一自由な国であるはずのアメリカが抱える黒人人種差別問題が、子供、家族、友人、コミュニティなどを通して、直球で飛び込んでくる。 いくらなんでもここまで・・・と眉をひそめたくなるような現実から目を背けてはいけない。

    牟田 康世

  • ノンフィクションですが、シカゴに住む黒人兄弟の成長の一時期を愛情深く語る筆者の思いを感じて欲しいです。 また、その語りの中で、アメリカ社会に延々と続くひずみを、事件や統計を交えてわかりやすく解説し、現在にも通じる黒人差別の歴史を読者に訴えます。 ふたりの少年とその母の困難な日常に立ち向かう姿に感動をもらい、同時にアメリカ社会の持つ問題を学んでいける本です。

    草郷 容子

  • 30年以上前のノンフィクション作品ですが、Black lives matter.は起こるべくして起きたのだと原因を知ることができます。 2020年度からのコロナの影響で世界中の人々がこれまでとは違い制限を余儀なくされる辛い生活を強いられていますが、作品中の少年たち、ラフィエットとファロウは黒人がゆえに過酷な人生を送っていました。 子供なりに葛藤しつつ、賢くまともに生き抜こうとするたくましい二人に同情したり、勇気づけられたり。 中でも幼い弟のファロウは精神的に参って吃音の症状が出たりするも、チャレンジ精神が旺盛で将来の目標をきちんと持ち、マイワールドの中で自分を癒し取り戻すなど応援したくなる少年です。

    K.S.

  • 悪との境で揺れ動く十代のラフィエットとまだまだ無邪気で子供らしさが残るファロウの兄弟と、そしてふたりを見守り、希望を託す母ラジョーを中心とするリバーズ一家の日常を通じ、 都市スラム、貧困、麻薬、銃、早すぎる妊娠と学業からのドロップアウト、そして親しい友の死まで、アメリカの現代社会が抱える問題に直面した子どもたちの日常をリアルに綴った作品。

    蔭山 麻由子

  • ノンフィクションでありながら、緊張感のあるシリアスなシーンと文学的な文章で、読んでいくうちにあっという間に本の中の物語へと引き込まれていくのがこの本の魅力です。 厳しい環境にいる子供達や家族が必死に社会を生き抜いていく姿に心が打たれます。

    K.Y.

ブックレビュー

"家族や友達とのささやかな日常と、突きつけられる厳しい現実。 そのコントラストが読む人の心を大きく揺さぶる作品。 この話がノンフィクションであるという事実と、今世界中で起きている社会問題を照らし合わせると、改めて色々なこと考えさせられ、そして気付かせてくれます。"

K.Y. さん

"1980年代のシカゴ。生存と尊厳をかけて闘わなければならない幼い兄弟ラフィエットとファロウ。 その日常を辿るうち、わたしたちは時を遡り人種や国境を越えて彼らに引き寄せられていく。 ふたりに明日が来ることを、そこに救いがあることを、ひたすら願っている自分に気付く。"

柳川 春日 さん

"1980年代のシカゴ、スラム街。強盗や銃撃戦、ドラッグなどが蔓延した過酷な世界に住む幼い黒人兄弟の2年に渡る成長記録を記したノンフィクション。 スラム街で生まれ育ったがゆえに10歳そこそこで子供らしさが削がれていく。当時のアメリカ、特にシカゴの行政制度や、黒人社会の在り方などが見えてくる。 気を緩めると自分を取り巻く環境に足をすくわれかねない状況でもがき苦しみ、自分を見失わずに母親や弟たちへの確固たる愛情で自分を奮い立たせて生きていくのだが、無事に成人できるのだろうか。"

K.S. さん

"アメリカ都市部スラムの黒人貧困家庭に生まれた子供たちの日常生活に作者は密着し、その喜び、悲しみ、絶望を赤裸々に描き出す。 将来への希望は厳しい現実に押しつぶされて「もし」という仮定形でしか語ることができず、彼らの子供時代は早々に終わりを告げる。 それでもラフィエットとファロウの兄弟は、過酷な運命と戦いながら必死に生き延び、より良い生活を求めようとする。読み終えた後には、彼らに幸あれと祈らずにはいられない。"

蔭山 麻由子 さん

"生まれ落ちた所で人の人生は決まる、と思いたくはない。生物として生まれた以上、必ず死も訪れる。生きていくということは簡単なことではない。 だが、生きている間、誰しも常に何かしらの希望を抱き、幸せを望んで模索するものだ。 この本に登場する子供たちにはそれらがいっさい許されない。一筋の光も見えない社会に生まれてしまった子供たちの壮絶な日々と、 アメリカという自由の国が抱えてきた問題を、二人の幼い黒人兄弟へのインタビューを軸に、アメリカ人ジャーナリストが丁寧に炙り出したノンフィクション。"

牟田 康世 さん

著者紹介

Alex Kotlowitzアレックス・コトロヴィッツ

アメリカのジャーナリスト、作家、映画監督。

本作品 THERE ARE NO CHILDREN HEREがベストセラーとなり、カール・サンドバーグ賞、クリストファー賞、ヘレン・バーンスタイン賞を受賞。 ニューヨーク公立図書館は、20世紀の the 150 most important booksの一つと称賛。同作品はテレビ映画化され、オプラ・ウィンフリーが出演している。

2011年にはドキュメンタリー映画 The Interruptersを共同制作し、エミー賞を受賞。

翻訳者について

THERE ARE NO CHILDREN HERE 日本語訳版(電子書籍)は、フルーツフルイングリッシュ「翻訳本出版プロジェクト」に参加された32名の共同翻訳となっています。

原書を何度も読んで理解するところからスタートし、たくさんのステップを経て生み出された、皆さまの努力が詰まった一冊です。

  • 秋田 紀子
  • 朝川 静乃
  • 天野 麻理子
  • 泉 由華
  • 植木 知果
  • 内田 真穂
  • 小川 茂樹
  • 角田 悠
  • 蔭山 麻由子
  • 加藤 厚志
  • 河村 久美子
  • kiki2201
  • 北垣 かおる
  • 草郷 容子
  • 白水 優光
  • 菅原 直子
  • 杉山 聖
  • 清家 加奈江
  • 戸田 杏子
  • 長山 昌子
  • 鍋島 協太郎
  • 林 樹永
  • 早船 由香
  • 日高 克広
  • 藤田 キミ
  • 布上 美紀子
  • 細野 好子
  • 宮坂 祐子
  • 牟田 康世
  • 柳川 春日
  • 山本 静香
  • 横山 かよ

※順不同

書籍情報

タイトル
THERE ARE NO CHIDLREN HERE(日本語版)
邦題
もし、ぼくがおとなになれたら
著者
Alex Kotlowitz
ジャンル
ノンフィクション
出版年月日
2021年5月20日
ページ数
392ページ
サイズ
菊判(150mm x 220mm)
ISBN
978-4-9912118-5-0 C0097
価格
1,980円<税込>
※1冊〜購入いただけます。
※商品の発送は6/28(月)以降となります。